足底腱膜炎――もっとも多い原因
踵の内側、足の裏に近い部分の痛みで、朝起きて最初の一歩が特につらいのが典型的なパターンです。詳しい仕組みは「朝の膝の痛み」の記事で解説していますので、そちらもあわせてご覧ください。
足底腱膜炎、簡単なおさらい
就寝中に足関節が軽く底屈した姿勢で足底腱膜がやや短縮し、起床後の一歩目で急に伸ばされることで、かかとの骨との付着部にストレスがかかり痛みが生じると考えられています。250人の踵部痛患者を調べた研究では、足底腱膜炎の患者全体の53.2%を占め、踵部痛の中で最も多い原因でした(Yi TI, et al. Ann Rehabil Med. 2011)。
踵部脂肪体萎縮――踵の真ん中の「打撲のような」痛み
加齢とともに、踵の底面にあるクッション(脂肪体)が薄くなることで起こる痛みです。足底腱膜炎とよく似ていますが、朝の一歩目に限らず、硬い床を歩いたときや長時間の立ち仕事で悪化しやすく、踵の中心部が打撲のように痛むのが特徴です。
足底腱膜炎とどう見分けるの?
先述の250人の研究では、踵部脂肪体萎縮は全体の14.8%を占め、足底腱膜炎に次いで多い原因でした。両者を比較すると、脂肪体萎縮は長時間の立位で悪化すること、夜間の痛み、両側性の痛みと関連しており(オッズ比はそれぞれ約20.9、20.9、24.9)、逆に朝一番の一歩目の痛みや内側踵骨隆起の圧痛はほとんど見られませんでした(Yi TI, et al. Ann Rehabil Med. 2011)。つまり「朝より、むしろ一日中の荷重で悪化する」「片側だけでなく両側に出やすい」というパターンの違いが、問診での重要な鑑別点になります。
踵骨疲労骨折――活動量に比例して悪化する痛み
ランニングや長時間の歩行など、過用によって踵骨に微小な損傷が積み重なって起こります。安静時よりも歩く・走るなど衝撃を伴う動作で痛みが強まり、活動量を増やすほど悪化していくのが特徴です。踵の両側から圧迫するテスト(スクイーズテスト)で痛みが誘発されることが診断の手がかりになります。
画像診断のポイント
初期の疲労骨折はレントゲンでは写らないことが多く、症状に見合った所見が得られない場合は、MRIでの評価が推奨されます(Tu P. Am Fam Physician. 2018)。活動量を急に増やした後や、硬い路面への変更後に発症することが多く、既往やスポーツ歴の聴取が診断の助けになります。
神経の絞扼による踵部痛――足底腱膜炎と間違われやすい
踵の内側を通る神経が圧迫されることで、足底腱膜炎に似た痛みが出ることがあります。代表的なのが外側足底神経第一枝の絞扼(通称バクスター神経障害)と、足根管症候群(後脛骨神経の絞扼)です。灼熱感やしびれを伴う点、日中の活動とともに悪化しやすい点が、足底腱膜炎との違いとして参考になります。
外側足底神経第一枝の絞扼、もう少し詳しく(解剖)
後脛骨神経は足関節内側で内側足底神経と外側足底神経に分岐し、外側足底神経からさらに分かれる第1枝は、①母趾外転筋の深筋膜、②足底方形筋の内側縁、③踵骨の骨膜という3つの構造の間の狭いトンネル状の部位を通過します。この神経は主に小趾外転筋を支配する運動神経ですが、途中で踵骨骨膜や周囲の靭帯に感覚枝を送っており、この部分の絞扼が痛みの原因になると考えられています。母趾外転筋の肥大(ランナーなど)、扁平足による足底方形筋の内側偏位、足底腱膜炎に伴う踵骨骨棘や周囲組織の腫脹などが、絞扼を起こしやすくする要因として挙げられます。英語圏では発見者にちなみ"Baxter's nerve"と呼ばれ、日本の専門誌でも「バクスター神経障害」という表記が使われることがありますが、一般にはまだ広く浸透した呼び名ではなく、「外側足底神経第一枝の絞扼」という記述的な名称の方が分かりやすい場合もあります。
足底腱膜炎と間違われやすい理由
外側足底神経第一枝の絞扼は慢性の踵部痛の最大20%を占めるとされる一方、臨床的な認知度が低く、しばしば足底腱膜炎として見過ごされていると指摘されています(Lareau CR, et al. J Am Acad Orthop Surg. 2014)。圧痛点が足底腱膜炎よりもやや近位・内側にずれることが多く、母趾外転筋の萎縮がMRIで確認できる場合があります。足根管症候群は、むしろ夜間や長時間の立位・歩行後に悪化するしびれ・灼熱感が特徴で、足底全体に症状が及ぶ点で局所的な足底腱膜炎と区別されます(Tu P. Am Fam Physician. 2018)。
炎症性疾患としての踵部痛(付着部炎)
乾癬性関節炎や強直性脊椎炎などの脊椎関節炎群では、足底腱膜だけでなくアキレス腱の付着部にも炎症(付着部炎)が及ぶことがあります。片側だけの一般的な足底腱膜炎と異なり、両側性であること、他の関節症状や皮膚症状を伴うことが多いのが特徴です。
受診時に伝えておくとよい情報
踵部痛が両側性である、日中の他の関節にも痛みがある、皮疹(乾癬など)や眼の炎症の既往がある、といった情報は、脊椎関節炎群を疑う手がかりになります。踵部痛の鑑別診断には、腱膜・脂肪体・骨・神経の局所的な原因に加えて、こうした全身性の炎症性疾患も含まれることが、複数のレビューで指摘されています(Tu P. Am Fam Physician. 2018)。
踵の後面(アキレス腱側)の痛み
ここまでは踵の底面(足底側)の痛みを扱ってきましたが、踵の後ろ側、アキレス腱の付近が痛む場合は、アキレス腱症、踵骨後部滑液包炎、Haglund変形に伴う炎症など、別のグループの原因が中心になります。成長期のお子さんでは、Sever病(踵骨骨端症)という、成長軟骨への牽引ストレスによる痛みも代表的です。これらは足底側の痛みとは性質が異なるため、別の機会に改めて取り上げたいと思います。
受診の目安
- 朝の一歩目に限らず、一日中・両側に痛みがある → 脂肪体萎縮や炎症性疾患の可能性もあり、ご相談をお勧めします
- 活動量に比例して悪化する、休んでもなかなか改善しない → 疲労骨折の可能性も考え、早めの受診をお勧めします
- 灼熱感・しびれを伴う → 神経の絞扼が関わっている可能性があります
- 他の関節の痛みや皮疹を伴う → 全身性の炎症性疾患の可能性があり、早めのご相談をお勧めします