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池田医院・診療日記
信頼とまごころの医療 からだにやさしい医療をめざして

整形外科 外科 リハビリテーション科

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平成28年9月1日(木)
 環指・小指のしびれ 小指球ハンマー症候群

 小指球ハンマー症候群は、小指球部への反復する微少外傷により、同部の尺骨動脈とその分枝に血栓が生じ、手指の循環障害を起こします。一度の強い外傷でも起こることがあります。神経症状を訴える場合は、栄養血管の阻血や、2次性に仮性動脈瘤が生じて圧迫して生じます。

 浅掌動脈弓、深掌動脈弓が形成されていない場合(破格)は症状が強く出やすい。指が壊死を起こすこともあります。

 症状は、寒冷暴露や誘発作業で、尺側手指の冷感、しびれ。神経阻血症状は、鈍痛、だるい痛み、しびれ、筋力低下。循環障害として、手指の冷感、チアノーゼ、レイノー徴候、寒冷不耐性、指腹部萎縮、指尖部潰瘍。

 診断:Allen test 手を握ってもらい橈骨動脈、尺骨動脈を検者の指で圧迫し血流を遮断。次に指を広げてもらい、尺骨動脈の圧迫を解除。6秒以内に手指の血流が再開すれば、陰性。(同様に橈骨動脈もチェックする)

 レントゲン:動脈の石灰化
 神経伝導速度検査
 超音波ドップラー血流計、エコー
 サーモグラフィ
 MRA、CT angiography

 治療:急激な阻血で激痛を訴える場合は、腕神経ブロックなどで疼痛を軽減させ血管拡張を計る。プロスタグランジン製剤の静脈内投与。血管壁の器質的異常が病因なのでウロキナーゼの適応はない。阻血症状が強く、CTAで血管の閉塞、狭窄、コイル状変化などの異常がはっきりすれば、自家静脈移植による血行再建術。急性の血行障害ではいたずらに手術時期を延ばさないようがよい。慢性の循環障害では、末梢血管拡張剤を投与。禁煙指導、症状を誘発する手の使用は控える。動脈瘤による圧迫は切除、または静脈移植による血行再建術、神経剥離術を行う。
 
 
平成28年9月2日(金) しびれ

 8月は小指・環指のしびれを起こす疾患を中心に書きました。しびれはとても厄介で、なかなか診断がつきにくいものです。なぜならば脳〜脊髄神経〜末梢神経の各部位で似たような症状が起こること、また原因疾患が多岐にわたり、神経内科、循環器内科や脳神経外科、整形外科領域をオーバーラップしていることが、鑑別を困難にしています。

 そこで今月は、しびれを総合的に判断するために文献や資料をまとめて自分なりの考えを述べたいと思います。

 さて、「しびれとはなんぞや」と言われると正直なところ困ってしまいます。しびれとは自覚する感覚障害のひとつで、「じんじん」「ぴりぴり」「ちくちく」「無痛感」「筋力の低下(麻痺)」など人によってさまざまな表現をされます。医学的にこういう状態を「しびれ」とする明確な定義はありません。(運動障害は一般的にはしびれとはしない。)あくまでも自己申告となります。多くは原因があり自覚症状として「しびれ感」を訴えられます。診療する立場からは、それはいかなる状態なのかをまず判断しなければなりません。

 ひとくちにしびれと言っても、症状自体に幅があり、また原因疾患も多岐にわたるため、多くの医師が敬遠しがちとなっています。

 しびれ(感覚異常)をきたす疾患は、神経障害性と非神経障害性に分けられます。神経障害性のしびれは、障害部位により、大脳、脳幹、脊髄、神経根、末梢神経に分かれます。非神経性のしびれでは、閉塞性動脈硬化症、胸郭出口症候群などの循環障害、四肢・口唇のしびれは、過換気症候群、低カルシウム血症(甲状腺術後、副甲状腺機能低下症)でなど起こります。非神経性障害の特徴は、神経の分布と一致しないことです。
 
 
平成28年9月3日(土)
 しびれ2

 しびれ(感覚障害)をきたす疾患

1.神経性障害
 ・末梢神経障害:代謝障害(糖尿病)、ビタミンB1欠乏症、膠原病、中毒(薬剤、重金属、有機溶媒)、神経免疫性疾患(ギラン・バレー症候群、癌など)、遺伝性神経疾患など
 ・脊髄・神経根障害:頸椎症や脊髄腫瘍などによる神経圧迫、多発性硬化症などの脱髄疾患、脊髄梗塞などの血管障害、脊髄空洞症、脊髄炎、ビタミンB12欠乏症(亜急性連合性脊髄変性症)など
 ・脳障害:脳梗塞、脳出血などの脳血管障害、脳腫瘍、脱髄疾患など

2.非神経性障害
 ・血管系の異常:胸郭出口症候群(頚〜肩〜上肢のしびれ・痛み)、閉塞性動脈硬化症・バージャー病(主に下肢のしびれ、痛み、上肢でも起こる)
 ・内科疾患:過換気症候群・副甲状腺機能低下症(四肢のしびれ、四肢のつっぱり感といった筋痙攣)、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(左上腕内側のしびれ)、緊張性頭痛(四肢のしびれ、肩こり、頭痛)など
 
 平成28年9月4日(日)
 
平成28年9月5日(月) しびれ3

 しびれ分類

 1.単神経炎or神経根障害
 2.中枢神経障害
   ・交叉性感覚障害・・・脳幹障害(例:右顔面しびれ+左体幹〜下肢しびれ)
   ・顔面を含む片側全体の感覚障害・・・テント上病変
 3.脊髄障害
   ・典型例:病変のある髄節以下両側左右対称に障害
   ・ブラウン・セカール(Brown-Sequard)症候群:脊髄の半側のみの障害。患側の障害髄節の完全知覚麻痺、それより遠位の患側で運動麻痺、深部感覚障害。対側は温痛覚障害
   ・脊髄空洞症では頚椎での発症が多く、上肢のみの障害が起こることがある。進行すると膀胱直腸障害、歩行障害
 4.多発神経炎:左右対称性の靴下・手袋型
 
 
平成28年9月6日(火)
 しびれ4

 神経障害を初診でみる場合、中枢神経障害と末梢神経障害かが一番気になります。特に脳梗塞などの疾患は早期の対応が必要なこともあり気を抜けません。

 一般的に、末梢神経障害はその障害された神経に合致した感覚障害や運動障害を起こします。他方、中枢神経障害では、末梢神経の分布に合致しない範囲の障害を起こすことが多い。しかしながら、例外もあって、大脳皮質の梗塞で、偽性尺骨神経麻痺と呼ばれる単神経障害とよく似た障害を起こすことがまれにあります。

 中枢神経障害は運動していないときに急性発症します。末梢神経障害は圧迫や絞扼要因があるなどの原因が比較的推察しやすいと言えます。

 
 両側下肢のしびれを認める場合、脊髄障害では特定のデルマトーム以下が障害され、遠位優位であれば多発神経炎、左右非対称なら多発単神経炎を考えます。

 両側下肢の神経傷害性しびれの鑑別
 ・多発神経炎:左右対称性で遠位優位
 ・多発単神経炎:非対称性、発熱、激しい疼痛、急速な進行
 ・Guillain-Barre症候群:上行性の運動麻痺、腱反射が高度低下・消失、ときに構音障害や複視
 ・脊髄病変:特定のデルマトーム以下の障害。脊椎の前後屈で症状に変化、上位ニューロン障害で腱反射亢進
 ・脳幹障害:構音障害、複視
 ・大脳障害:頭頂部病変で起こりうるがまれ。頭頂部の占拠病変による圧迫で起こることあり。

 
 
平成28年9月7日(水)
 しびれ5

皮膚所見

 ・帯状疱疹:紅斑、水疱、痂皮 しびれ。数日から〜数週間、痛みが先行することがおおい。神経障害があるが発疹のないものを「Zoster sine herpete」といい、髄膜炎や脳神経麻痺を引き起こします。
 ・血管炎:多発単神経炎をきたす疾患で、紫斑→皮膚生検で確定診断
 ・CRPS(複合局所疼痛症候群):外傷後、皮膚温、色調の左右差、体毛減少、爪や皮膚の萎縮
 ・POEMS症候群:多発神経炎+多毛+色素沈着

 POEMS症候群:POEMS症候群 (P: polyneuropathy−多発神経炎,O: organomegaly−臓器腫大,E: endocrinopathy−内分泌障害,M: M-protein:M蛋白,S: skin changes-皮膚症状)
 骨髄や一部のリンパ節に発生した形質細胞腫から分泌される血管内皮増殖因子 (VEGFと略されます) というタンパク質が症状を起こしているのではないかとされています。
  • 手足がしびれて感覚が鈍くなる
  • 手足に力が入らない
  • 手足がむくんでくる
  • 皮膚が黒っぽくなる
  • 体毛が濃く,固くなる
  • 腹水や胸水がたまってくる
  • (男性の場合) 女性化乳房
 
 
平成28年9月8日(木) しびれ6


 上肢の絞扼性神経障害
 ・胸郭出口症候群:原因→頚肋症候群、斜角筋症候群、肋鎖症候群、小胸筋症候群、過外転症候群
 ・橈骨神経麻痺
 ・肘部管症候群
 ・後骨間神経麻痺(回外筋症候群):橈骨神経の枝である後骨間神経の絞扼
 ・前骨間神経麻痺(回内筋症候群):正中神経の枝である前骨間神経の絞扼
 ・手根管症候群
 ・ギオン管症候群
 
 
平成28年9月9日(金) しびれ7

 手根管症候群の非典型例(破格) 中枢感作

 手根管症候群の35%程度で、正中神経領域外の知覚障害も訴えていたとする報告(中枢感作)があります。また尺骨神経領域の症状を訴えることもあると言われています。従って正中神経領域以外の症状があるからといって手根管症候群を含めて正中神経障害を鑑別診断から除外しないように心がけます。


 *中枢(神経)感作
 「中枢感作」とは、末梢での組織損傷や炎症の程度が激しくまた長期間続くとそれらが伝達される中枢に機能的な変化が生じ、正常な伝達が中枢で誤って解釈され「痛み」として感じられるようになること。要するに痛み刺激を受け続けると、他の正常な信号も痛みと認識してしまうことを言います。

 
 
平成28年9月10日(土) しびれ8

 <手根管症候群の成因>

 内科疾患:糖尿病、甲状腺機能低下症、関節リウマチ、アミロイドーシス、末端肥大症、長期間の透析

仕事関連の手根管症候群と診断された297例中、5.7%が糖尿病、6.1%が甲状腺機能低下症、11.1%が関節炎、11.7%が変形性関節症を持っていたとしています。全体の36.7%に内科疾患を併発。 Atcheson SG,et al : Concurrent medical disease in work-related capal tunnrl syndrome

 *手関節の反復する動作で手根管症候群を起こすのはまれとされています。 食肉解体業などの寒い環境で反復した労作を伴う場合は発生することもあると報告されています。 Falkiner S,et al : When exactly can carpal tunnel syndrome be considered work-related? ANZ J Surg 72(3):204-209,2002
 
 平成28年9月11日(日)
 
平成28年9月12日(月) しびれ9

 <手根管症候群が女性に多い理由>

 ・解剖学的に手根管が狭い
 ・閉経後に多い・・・女性ホルモンとの関連、アロマターゼ阻害剤との関連
 ・妊娠時:ホルモン変動、体液貯留

 などが示唆されています。
 
 
平成28年9月13日(火) しびれ10 下肢

<下肢のしびれ>

 下肢に限局したしびれは、血流障害と神経障害に分かれます。

 神経障害:末梢神経障害、神経根障害、脊髄障害
 血管障害:ASO,バージャー病、腹部大動脈瘤、大動脈解離、静脈のうっ滞

 まず血流障害の有無をチェック。そのあと神経障害を診ます。

<血流障害の評価>

 1.下肢虚血
 病歴:動脈硬化リスク、血管性跛行
 身体所見:下肢皮膚温、色、足背動脈の拍動、腹部や鼠径部の血管雑音
 ・急性発症:腹部大動脈解離、大動脈瘤、下肢動脈血栓閉塞・・・・検査:下肢・腹部血管エコー、造影CT
 ・慢性経過:末梢動脈疾患、腹部動脈瘤・・・・検査:ABI、下肢・腹部血管エコー

 2.下肢うっ血
 病歴:慢性経過の下腿浮腫、むずむず脚症候群、夜間のこむら返り、下肢の発赤、疼痛
 身体所見:下腿浮腫、表在性静脈怒張、色素沈着、皮膚潰瘍形成、下腿の発赤、圧痛
・下肢静脈不全、肢端紅痛症・・・検査:下肢静脈エコー、血液検査

<障害部位別鑑別診断>

 ・靴下・手袋型の感覚障害、つま先の背屈障害:末梢神経症、下肢から。運動障害はまれ。

 ・単一神経支配領域の障害、またはその組み合わせ:単神経炎(血管炎、絞扼性神経障害)
  総腓骨神経:下腿外側に感覚障害、足関節背屈障害(鶏歩、ドロップフット)
  脛骨神経:踵部の感覚障害、足関節底屈障害、内反障害(外側鉤足)
  深腓骨神経:第1趾と第2趾の趾間部、甲部に限局した感覚障害

 ・デルマトーム、筋節に沿った感覚障害、筋力低下:神経根または脊髄障害
  膀胱直腸障害、下肢深部腱反射亢進、体幹レベルでの感覚障害、脊髄交叉所見、痙性麻痺、神経性間欠跛行、歩行失調
   →なし 神経根症状:腰椎椎間板ヘルニア、坐骨神経痛など:感覚低下は少ない。(支配がオーバーラップ)
   →あり 脊髄疾患:腰部脊柱管狭窄症、脊椎腫瘍、脊髄梗塞、脱髄性疾患など

 *注 脊髄を圧迫するか根部を圧迫するか、その疾患の状態によって異なります。椎間板ヘルニアなど占拠性病変は、根性、脊髄性いずれの症状もあり得ます。
 *注 高齢者は、血管性、神経性が併発していることもあり、慎重な見極めが必要です。

 *注 肢端紅痛症:上下肢末梢の灼熱感、発赤、皮膚温の上昇。夜間に憎悪。55%が下肢のみ。特発性は、Naチャンネルをコードする遺伝子異常、続発性は、血液疾患(真性多血症、慢性骨髄性白血病など)、膠原病(SEl、RA)、薬剤性、感染症、腫瘍性。
 
  <Slump 試験>


 椅子に座って、膝を伸ばすと疼痛や痛みが出現します。更に痛みが出た位置から足関節を背屈させて、疼痛が増強するか確認します。感度84%、特異度83%。ちなみにSLR試験は感度52%、特異度89%。

 厳密な方法は、患者を端座位にし股関節90度屈曲、膝関節90度屈曲とし、頚部をやや前屈し、受動的に膝関節を伸展させてしびれや痛みが出る角度を評価します。痛みが出たら足関節を背屈させて増強するかチェックします。
 
 
平成28年9月14日(水) しびれ11 下肢2

 <Vesperの呪い〜右心不全と腰部脊柱管狭窄症>

 右心不全があると臥位で脊柱管の内圧が上がり、腰部脊柱管狭窄症の症状が悪化します。就寝後に疼痛のために寝られなくなります。これを「Vesperの呪い」と名付けられています。心不全の指標である脳性Na利尿ペプチド(BNP)が上昇します。右心不全の治療を行うことにより、症状は改善します。
 
 
平成28年9月15日(木) しびれ12 下肢3

 <多発神経炎との鑑別>

 多発神経炎は人口の2-3%にみられ、55歳以上では8%を占めます。原因としては、糖尿病が最も多く、アルコール49%、アルコール4%、尿毒症4%、遺伝性ニューロパチー4%、薬物・毒物3%、甲状腺機能低下症2%、悪性腫瘍2%、M蛋白血症2%、血管炎による虚血2%、AIDP4%、CIDP3%があります。

 *AIDP:急性炎症性脱髄性多発根神経炎
 *CIDP:慢性炎症性脱髄性多発根神経炎

 慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)は、2ヶ月以上にわたり進行性または再発性の経過をとり、四肢の筋力低下やしびれ感をきたす末梢神経の疾患(神経炎)です。

 鑑別のための検査:血算、赤沈、CRP、ビタミンB12(正常下限であればホモシステインも測定)、葉酸、FBS,腎機能、肝機能、甲状腺機能、免疫電気泳動、尿定性、尿中B-J蛋白、病歴により薬物・毒物の確認。神経伝導検査(多発性神経炎では、軸索損傷のパターンをとる。)

 *原因は複数であることも多い。糖尿病患者の末梢神経障害100人のうち36人は糖尿病と関係のない疾患であった。
 *中年男性のアルコール症ではビタミンB12欠乏症も注意。喫煙率も高く、肺がんによる腫瘍随伴症状にも気をつけます。
 
 
平成28年9月16日(金) しびれ13 下肢4

 多発性神経炎を引き起こしている疾患の鑑別は、急性の進行なのか、慢性の進行なのかで切り分けると判断しやすい。特発性多発神経炎は年単位で慢性に発症し、足先から左右対象に始まり、感覚障害優位となります。(糖尿病性、アルコール性などの代謝性疾患も同様の経過が多い。)週単位〜月単位で進行する場合、左右非対称の場合、発症時より上肢に症状がある場合、運動障害が中心の場合、感覚性失調がある場合は、ビタミンB12欠乏症、血管炎、膠原病、悪性腫瘍、M蛋白血症などによる多発性神経炎を考えます。 

 ・急性発症:血管炎、Guillain-Barre症候群、ビタミンB1・B12欠乏症、腫瘍随伴症候群
 ・非常に緩徐:遺伝性
 ・左右非対称性:血管炎による多発単神経炎、AIDP,CIDP、悪性腫瘍
 ・近位筋の脱力を伴う:AIDP,CIDP
 ・non-lwngth dependent polyneuropathy:Sjogren症候群
 ・筋力低下が中心:運動ニューロン病(ALS)、多巣性運動ニューロパチー、Guillain-Barre症候群、CIDP、ポルフィリン症、鉛中毒、シャルコー・マリー・トゥース病、
 ・激しい痛み・自律神経障害:small fiber neuropathy
 ・感覚性失調:ビタミンB12
 ・他覚所見にくらべ時間的な感覚障害が乏しい:遺伝性疾患
 
 <多発性神経炎の典型症状>

 しびれは足先から始まり、左右対称性に上向し、下腿半分を越えた後に、手指の感覚障害が出現し、緩徐に進行します。症状は近位に行くに従い、徐々に軽くなる、いわゆる、length-dependent (神経の長さに依存した)に症状を呈します。

 従って逆に以下の症状がある場合は、否定的な所見であり、他の疾患を考慮します。
1.足先以外から発症
2.手足同時発症
3.下肢(特に足首以遠)に症状がない
4.下肢より上肢の症状の範囲は同等もしくは広範
5.下肢の症状が膝上まで来ているのに上肢に症状所見が無い
6.四肢遠位部より近位部の方が症状・所見が強い
7.四肢だけでなく、頭頸部、顔面、体幹にも症状・所見がある
8.非対称性(左右、背側・腹側)

*下肢に症状のないものは、靴下・手袋型ではない。

参考:総合診療 2016.5 しびれるんです! P399
 
 
平成28年9月17日(土) しびれ13 下肢4

<small fiber neuropathy>


 末梢神経は神経線維の太さにより、大径(large)、小径(small)に分けられます。

線維径 線維の種類 筋力低下 感覚障害 自律神経障害 腱反射
大径 あり 触覚、振動覚の低下
関節位置覚障害
Romberg徴候(+)
なし 低下
小径 Aδ、C なし 温覚・冷覚の低下
疼痛・かゆみ
感覚低下
知覚過敏
錯覚感*1
自律神経障害*2
あり 正常

*1 錯覚感:触るだけで、痛みや冷感を感じる異常感覚
*2 初期は発汗の低下、皮膚は乾燥ひび割れ。代償性に正常部位の発汗は亢進。末梢の血管運動障害として、発赤・腫脹→
蒼白・冷感を繰り返す。そのほか、眼、口腔の乾燥、交代制便通異常、尿閉、インポテンツ。進行例で起立性低血圧。

 小径の末梢神経のみが障害されると、「灼熱感、穿刺痛、電撃痛」といった激しい痛みを感じます。しかしながら、大口径の神経は正常ですので、筋力正常、腱反射正常、また神経伝導速度検査でも大口径の末梢神経を測定しますので、異常所見が得られず、正常と判断されることがあります。

・分類
 length-dependent small fiber neuropathy(LDSFN) 足先から始まり、徐々に上行する (靴下・手袋型)
 non-length dependent small fiber neuropathy (NLDSFN) 後根神経節の障害により、非典型的な分布をとる

* small fiber neuropathyは痛みが強く、「両足裏が焼けつくようだ。」「口の周りが燃えているようだ。」などの症状を訴えることがあります。

・基礎疾患
  LDSFN:Sjogren症候群、サルコイドーシス、SLE、RA、混合性結合組織病(mixed connective tissue disease)、Celiac病、甲状腺疾患、パラプロテイン血症、HCV、糖尿病など
  NLDSFN:糖尿病、甲状腺疾患、VB12欠乏、HIV、Celiac病、むずむず脚症候群、薬剤性、パラプロテイン血症など
 
 平成28年9月18日(日)
 平成28年9月19日(月)
 
平成28年9月20日(火) しびれ14 下肢5

 <傍腫瘍性末梢神経障害>

 悪性腫瘍に合併もしくは数ヶ月から2年ほと゛先行して末梢神経障害が亜急性または進行性に出現します。自己免疫機序が考えられています。臨床症状に応じて、亜急性感覚性ニューロノパチー,
感覚運動性ニューロパチー,自律神経性ニューロパチーに分類されます。特徴は、Large fiber neuropathyが主体の感覚性失調で、Romberg sign(+)、暗部での易転倒性となります。肺小細胞がんが最多ですが、胃がん、腺がん、リンパ腫などでも起こります。small fiber neuropathy が併発または単独で起こることもあり、その場合は疼痛が中心となります。
 
 
平成28年9月21日(水)しびれ15 下肢6

<Guillain-Barre症候群>

 『Guillain-Barre症候群は非典型例が典型的』 なかなかキャッチーな表題で書かれた特集(総合診療2016.5.P404-409)がありました。Guillain-Barre症候群は、医学を学んだ者なら誰でも知っている病気なのですが、その知っている知識が典型例のため、非典型例の方が実は多いために、このような表題を付けて注意喚起をしているようです。

 Guillain-Barre症候群の典型的な症状は、急性に発症する進行性の筋力低下と深部腱反射消失を伴う免疫介在型の多発性末梢神経障害とされます。多くは、呼吸器感染症が先行して1-2週間後に発症します。(3-6割は先行感染がありません。)2-4週間以内に症状はピークを付けて改善します。軸索型は抗ガングリオシド抗体が関与。まず、手足のしびれ感で発症し、その後、四肢の運動麻痺を起こします。(かつての典型例の説明では、しびれはなく運動麻痺のみとされていました。)およそ左右対称の症状で、遠位筋優位もしくは近位筋優位の筋力低下をきたします。また下肢優位もしくは上肢優位のこともあります。筋力低下は進行性で、最終的には四肢麻痺、呼吸筋麻痺(25%は人工呼吸器)となります。異常感覚(90%)、疼痛(60%)、感覚脱失、脳神経麻痺(顔面神経麻痺、球麻痺、眼球運動障害)、運動失調、自律神経障害(頻脈、徐脈、高血圧、起立性低血圧、神経因性膀胱など)を起こします。腱反射低下は8割。
 

 臨床亜型として、

・咽頭頚部上腕型
・急性口咽頭麻痺
・facial displegia and paresthesia (FDP)
・下肢型/対麻痺型
・感覚型GBS
・運動失調のみきたす運動失調型
・急性汎自律神経異常症
 
 平成28年9月22日(木)
 
平成28年9月23日(金) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方

 総合診療のGノート2016年8月号は「骨関節の痛みとしびれ」が特集されています。これを読み解きながら、痛みとしびれをどのようにして治療していくか、お薬の使いかたを含めて書いていきます。

 よく患者の質問で「薬は飲んだ方が良いのか?」があります。いつも答えるのは「必要がなければ、要りません。」です。どのような薬も出る出ないは別として副作用があります。出来れば身体の中に入れたくはないのが人情です。それでも副作用の可能性も十分考慮して、今ある症状を改善させることが期待できるのなら、使用するのも選択のひとつだと考えます。もちろん、絶対嫌だという人もおられますから、生死に関わらない話であれば、その意思を優先することになります。

 最近、痛みを我慢していると前頭頂の痛みを抑制する部分が萎縮してしまい、ちょっとした痛みにも強く感じるようになったり、周辺の通常の信号を痛みと捉えてしまうことが分かっています。従って、あまり痛みを我慢するのもよくないと言えます。

 これまで痛み止めと言えばボルタレンやロキソニンといったNSAIDsが中心でしたが、さまざまな薬が開発され、オピオイド、抗うつ剤なども使われるようになっています。これら薬剤の特性をしっかりと理解して使い分けることが大切です。
 
 
平成28年9月24日(土) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方2

 <疼痛の分類>
 1.器質的疼痛
   侵害受容性疼痛
   神経障害性疼痛

 2.非器質的疼痛
   心因性疼痛
   機能性疼痛
   中枢機能性疼痛

 *非器質的疼痛には、身体表現性疼痛障害、虚偽性障害、賠償神経症(転換型ヒステリー)が含まれるとし、慢性疼痛に精通した精神科医の診療が必要。 
 
 平成28年9月25日(日)
 
平成28年9月26日(月) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方3

<痛みを改善させる薬>

 ・NSAIDs(ボルタレン、ロキソニン、セレコックス)
 ・プレガバリン(リリカ)
 ・オピオイド系(トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープ)
 ・オピオイド
 ・アセトアミノフェン(カロナール)
 ・デュロキセチン(サインバルタ)

<解説>

・NSAIDs(ボルタレン、ロキソニン、セレコックス)
 昔からよく使われる痛み止めです。胃腸障害や腎障害を起こすことがあります。痛みを抑制沈静させる効果は大きいです。高齢者には、NSAIDsよりもアセトアミノフェンを使用するように推奨されています。NSAIDsを使ってもまったく痛みが変わらないケースでは、リリカやサインバルタ、オピオイド系を旨く使い分けると効果的です。

・プレガバリン(リリカ)
 神経傷害性疼痛によく効きます。神経根障害、絞扼性神経障害など。服用後、めまいを起こすことがあります。添付文書では75mg眠前で開始となっていますが、3割にめまいがみられるとされており、より少量の25mgで開始するようにします。特に高齢者、低体重者は、少量開始で増量は慎重に行います。

 著効例以外は、効果が出るまで2週間程度かかることも多く、効果判定を急がないこと。

 腎機能に影響はありませんが、減量は必要です。必要以上に血中濃度が高くならないようにします。
 副作用:浮腫(下腿に多い)、肥満(効果のある症例で多く、投与数ヶ月以上で出現)、傾眠(高容量のみで出現、低容量では眠気のみ)、注意力障害(減薬で改善)、味覚異常(減薬で改善)

・オピオイド系(トラムセット、トラマールOD、ワントラム、ノルスパンテープ)
 NSAIDsの効き目はあるが、もう少し効果を求めるときに使うのが効果的と言われています。オピオイド系は侵害受容性疼痛に効果的。
 副作用:嘔気(プリンペラン、1日15mgまで)、眠気(慣れるまで眠前投与、数週間)、便秘(酸化マグネシウム投与)

・アセトアミノフェン(カロナール)
 1893年より使われている鎮痛剤。中枢性の痛みを抑制。抗炎症作用はほとんどありません。腎臓や胎児の動脈管への影響はない。肝障害が起こることがあります。

 最近、見直されて高齢者には消炎鎮痛薬として第1選択薬となっています。
 
 NSAIDsと比較して鎮痛作用は弱い。アセトアミノフェン1,000mg=ロキソプロフェン60mgがほぼ同等の効果とされています。オピオイド使用中の突発性疼痛に対しても有用です。通常、600mgもしくは1,000mgを1日3-4回投与。eGFR60以下にはNSAIDsは使用不可なので代わりにアセトアミノフェンを使います。

・デュロキセチン(サインバルタ)
 元々「うつ病・うつ状態」,「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」に使われてきましたが、「慢性腰痛症に伴う疼痛」にも適応が広がりました。中枢性に上行する痛刺激を抑制します。

 腰痛症に対する投与法は「通常,成人には1 日1 回朝食後,デュロキセチンとして60mg を経口投与する。投与は1 日20mg より開始し,1 週間以上の間隔を空けて1 日用量として20mg ずつ増量する。」となっています。疼痛に対しては、抑うつ効果ではなく、下降性疼痛抑制系を介して鎮痛効果を発揮します。うつがない患者を対象として治験をしているため、うつ患者の慢性腰痛には用いない。


 *何をどのように投薬するかは医師の裁量ですが、ざっくりと書けば、高齢者、低体重、腎機能低下ではアセトアミノフェンが第1選択薬。肝硬変ではアセトアミノフェンを1日量2-3g以内に減量する。身体上問題がなければ、NSAIDsは痛みの強度に応じて使い分ける。NSAIDsの効き目が弱い場合は、オピオイド系に変更するかプレガバリン(リリカ)の併用を考慮。慢性腰痛でNSAIDsの効き目が弱い場合はデュロキセチン(サインバルタ)を考慮。およそこういう流れ。

 *消炎鎮痛剤を投与する場合、肝障害例、アルコール多飲者には二か月毎の採血検査、特に問題がない場合は、年二回の採血検査を行います。

 *トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン配合剤(トラムセット)は下降性疼痛抑制系を賦活し、侵害受容器性疼痛のみならず、神経障害性疼痛、非器質的疼痛である機能性疼痛症候群、中枢機能障害正当痛へに効果が報告されています。
 
 
平成28年9月27日(火) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方4

<肝硬変患者に対する鎮痛剤投与>

 肝硬変患者に対する鎮痛剤使用に関する、エビデンスに基づくガイドラインは存在しない。
 一般的には減量し投与頻度を減らすことが推奨されています。

 アセトアミノフェンは、長期投与の場合、2−3g/日以下に減量して投与することが推奨されています。
 NSAIDsは、プロスタグランジン阻害による急性腎不全の危険があるため避けるべきとしています。
 オピオイドは肝性脳症を誘発する危険性があり避けるべきとしています。

 参考文献:肝硬変患者における鎮痛剤の投与‐文献とエビデンスに基づく推奨
The Therapeutic Use of Analgesics in Patients with Liver Cirrhosis: A
Literature Review and Evidence‐Based Recommendations
Hepat Mon. 2014; 14: e23539
 
 
平成28年9月28日(水) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方5

<術後遷延痛>

 どのような手術であっても急性の術後痛を経て痛みが改善していきます。, そのうち一部が痛みが継続し、遷延性術後痛に移行することが知られています。四肢切断術後で30−50%、乳腺切除術で20−30%、開胸術で30−40%、鼠径ヘルニアで10%と報告されています。

遷延性術後痛の定義
・外科的操作後に出現
・術後少なくとも2カ月続く
・腫瘍の残存, 慢性感染などほかの原因による痛みを除外
・術前から存在した痛みを精査のうえ除外
 
 
平成28年9月29日(木) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方6

 <マインドフルネス認知行動療法>
 カバット・ジンによって始められたマインドフルネスストレス低減法を利用したもので、瞑想により身体や気持ちの状態を気づくためのこころのエクササイズです。これを応用して痛みのコントロールを行います。欧米の研究では、8週間のマインドフルネスを行うことによって、海馬や側頭頭頂接合部、扁桃体に変化があることが報告されています。
 
 
平成28年9月30日(金) いたみ・しびれ 新しい薬の使い方7

<痛み・しびれに対する漢方薬の使い方>

 漢方薬は長年の歴史のなかで調合され淘汰され効果のあるものが生き残り現在でも使われています。麻黄、附子が鎮痛効果が高いとされています。麻黄の主成分はエフェドリンですが、漢方では鎮痛効果を発揮します。

麻黄を含有する漢方(血圧上昇に注意)

 越婢加朮湯28 (麻黄1日量最大の6g)はアセトアミノフェンやNSAIDsで楽にならない整形外科的な痛みに対してよく用いられます。
 麻黄附子細辛湯127は帯状疱疹後の痛みに有効です。
 葛根湯1(麻黄含有)・・・痛みに有効

附子:トリカブトを熱処理して減毒したもの。痛みに効果。

 附子を含む漢方は

 牛車腎気丸107
 大防風湯97
 麻黄附子細辛湯127
 桂枝加朮附湯18
 真武湯30
 八味地黄丸7

 どれも鎮痛効果が得られることがあります。

 附子の副作用は、発汗、胃もたれ、下痢、動機、舌のしびれ

 附子(附子末として)の増量方法は、最初1.5g(1回量0.5g1日3回)、4週間様子を見て、その後、3.0g、4.5g、6.0gと増量します。どこかで不快感が出ればその人の附子を飲める上限量とします。