六月の外来
六月に入りました。近畿地方の梅雨入りはこの時期に重なることが多く、外来でも「天気が悪くなってから体が重い」「古傷が疼く」という訴えが増えてきます。
気圧の変化が関節や筋肉の痛みに影響するしくみはまだ十分に解明されていませんが、体の感度が上がる季節であることは外来でも実感します。体の声に少し耳を傾けやすい月です。
湿気と関節
梅雨どきは気温よりも湿度の上昇が先行します。湿気が高くなると体の表面からの熱放散がうまくいかなくなり、体内に熱がこもりやすくなります。
これが関節周囲の血流変化に影響するという説があります。
痛みの感じ方には個人差があり、「雨が降ると膝が痛む」という経験は多くの方が持っています。科学的な決着はついていませんが、一つ確かなことがあります。
膝関節は皮膚のすぐ下に位置するため、外気温の影響を受けやすい関節です。
特に冷えると痛みが出やすくなるため、梅雨のひんやりした日や冷房の効いた室内では、膝を冷やさない工夫をしてください。
雨の日の腰痛
梅雨の時期は外出が減り、家の中で過ごす時間が長くなります。動かない時間が増えると、腰周辺の筋肉が硬くなりやすく、慢性腰痛の方には特に辛い季節です。
雨の日でも、室内でのちょっとした動きが腰の状態を保ちます。椅子から立ち上がる、廊下を数往復歩く、それだけでも違います。
腰痛には「安静にすれば治る」というイメージがありますが、現在は動ける範囲で日常生活を続けるほうがよいとされています。
完全に動きを止めてしまうより、できることを普通にこなすことが回復への近道です。
室内でできる下肢の運動
雨で外に出られない日が続く梅雨の時期、下肢の筋力が落ちやすくなります。特に高齢の方は、数日動かないだけで筋力低下が顕著に出ることがあります。
椅子に座ったまま膝をゆっくり伸ばして数秒保持する「大腿四頭筋運動」は、膝を支える筋肉を鍛える基本的なリハビリです。テレビを見ながらでもできます。
10回を1セットとして3セット、朝晩2回行うのが目安です。最初はきつく感じる場合は回数を減らし、慣れてきたら少しずつ増やしていきましょう。
スーパーエルニーニョと今年の夏
今年の夏は「スーパーエルニーニョ」という言葉をよく目にします。
米国海洋大気局(NOAA)の予測では2026年夏のエルニーニョ発生確率は90%に達しており、前回のスーパーエルニーニョ(2015〜16年)以来10年ぶりの強力な現象になるとの見方があります。
エルニーニョが発生すると日本は「冷夏」になりやすいとされてきましたが、地球全体の海面水温上昇が続く今は、エルニーニョ年でも記録的な高温となることが相次いでいます。
気象庁も今年から最高気温40℃以上の日を新たに「酷暑日」と定め、今夏もその出現が平年並み以上になる見込みと発表しています。
整形外科の立場からは、熱中症は単なる暑さの問題でなく、その後の体力・筋力・関節機能の低下につながる点が気になります。
特に膝や腰に問題のある方、歩行補助具を使う方は、屋外での水分補給が遅れやすいリスクがあります。
梅雨が明ける前から、冷房の使い方・水分補給の習慣・行動時間帯の工夫を意識しておいてください。100年に1度とも言われる夏、備えは早めに越したことはありません。
「こんなことで来てよかったんでしょうか」
診察室でよく患者さんから言われることがあります。「こんなことで来てよかったんでしょうか?」
病気が進行してゴテゴテになることを思えば、むしろ早めに来ていただくほうが、患者さんにとってもプラスになります。
一方で「少し前から気になっていたけど、大げさかなと思って様子を見ているうちに悪化した」ということもよくあります。どちらが良いかは一目瞭然です。
整形外科に限らず、「あれ、おかしいな」と思ったときが来どきです。受診のハードルは低いほうがいい。「なんでもなかった」という結果も、それはそれで大事な情報です。
悩む前に受診することが大切です。
足がつる
夜中にふくらはぎが突然つる「こむら返り」は、これからの季節に外来でもよく聞かれる訴えです。就寝中に発症することが多く、月に数回の方から毎晩という方まで様々です。
主な要因として知られているのは、水分・電解質の不足です。汗をかく季節には水だけでなくミネラルも一緒に失われるため、意識的な補給が大切です。
発症した際の対処は、つま先を手前に引いてふくらはぎをゆっくり伸ばすことです。ただし、頻繁に繰り返す場合は、糖尿病や動脈硬化、あるいは服薬の影響が背景にあることもあります。
「年のせいだから」と放置せず、続くようであれば一度受診してください。
骨密度の検査
骨粗鬆症は自覚症状がないまま進行し、気づいたときには骨折しているというケースが少なくありません。骨量は20歳ごろにピークを迎え、50歳前後から低下が始まります。
特に女性は閉経後に骨量が急激に減少するため、整形外科の外来でも早めの骨密度検査をお勧めしています。
健康増進法のもと、40〜70歳の女性には5歳刻みで骨粗鬆症検診が実施されていますが、全国平均の受診率は4〜5%にとどまっています。
骨粗鬆症は「症状が出てから治す」病気ではなく、「症状が出る前に見つける」病気です。
閉経後の女性、やせ型の方、ステロイドを長期使用している方は特に、一度検査を受けることをお勧めします。
冷房と体
梅雨が続く中、室内では冷房をつけ始める時期になりました。熱中症の予防には冷房が欠かせませんが、冷えすぎた室内に長くいると、膝や腰の痛みが出やすくなることがあります。
冷えによって血行が悪くなり、関節周囲の筋肉がこわばるためです。
外は蒸し暑くても、膝は皮膚のすぐ下にある関節なので冷やされやすい場所です。冷房の効いた部屋では膝掛けを使う、長時間座り続けないで時々立ち上がる、といった工夫が助けになります。
設定温度を上げすぎると熱中症のリスクがあるため、「冷やしすぎない」ことと「適度に体を動かす」ことを組み合わせるのがよいでしょう。
湿布
整形外科で処方する「湿布」は、現在はロキソプロフェンやケトプロフェンといった消炎鎮痛薬(NSAIDs)を含むテープ剤やパップ剤が主流です。
皮膚から有効成分が吸収され、患部の炎症を直接抑える薬です。市販の古いタイプの湿布とは、効果の面で世代が異なります。
使うときに注意が必要なのが光線過敏症です。
ケトプロフェン含有の製品(モーラステープなど)が特に知られていますが、フェルビナク・インドメタシン・ジクロフェナクなど他のNSAIDs貼付剤でも同様の報告があり、NSAIDs貼付剤全般で注意が必要です。
貼付中はもちろん、剥がした後も数週間は貼っていた部位を日光に当てないようにしてください。また、いずれの湿布も長時間貼りっぱなしにするとかぶれやすくなります。
かぶれが続く場合は、同じ成分の塗り薬(外用ゲルなど)や内服薬に切り替えることがあります。処方された薬の使い方や皮膚トラブルは、遠慮なく担当医に相談してください。
梅雨の転倒
雨が続くこの時期は、玄関先・廊下・浴室の床が濡れて滑りやすくなります。高齢者にとって転倒は、大腿骨の骨折につながりやすく、その後の生活に大きく影響します。
「歩けているから骨折ではない」と思いがちですが、股関節周囲の痛みがあって片脚で立てない場合、骨折していることがあります。
濡れた床のある場所には滑り止めマットを敷く、浴室や階段には手すりを設ける、室内でも靴下だけでなく滑り止め付きのルームシューズを使う、といった環境の整備が大切です。
また、歩くときに足を引きずるような歩き方も転倒リスクを上げます。心配な方は一度受診して、原因を確認することをお勧めします。
スマホと首
首の痛みや肩こりを訴えて来院される方が増えています。問診すると、スマートフォンを長時間使う習慣のある方が多い印象です。
頭を前に傾けてスマホを見る姿勢は、首への負荷を大きく増やします。まっすぐ立っているときの頭の重さは約5〜6kgですが、頸椎が前方に曲がるにつれて首への負荷は倍以上に増えます。
本来、頸椎は緩やかに前方に弯曲しています。
このカーブが維持されることで頭の重さを効率よく支えていますが、うつむき姿勢が続くと弯曲が失われ、いわゆる「ストレートネック」になりやすくなります。
症状が進むと頸椎ヘルニアや頭痛につながることもあります。
スマホを見るときはできるだけ画面を目の高さに近づける、長時間連続で使わないようにする、首の後ろを伸ばすストレッチを取り入れるといった習慣が助けになります。
靴を選ぶこと
足・膝・腰の痛みを診ていると、靴が合っていないことが遠因になっている場合があります。
「ゆったりしていた方がいい」と大きめを選びがちですが、ゆるい靴は足が中で動いて余分な力がかかります。
また「幅広日本人」のイメージで幅広を選ぶ方が多いですが、実際には足のサイズは個人差が大きく、正確に測ってから選ぶことが大切です。
靴を選ぶときのポイントをいくつか挙げると、ヒールの高さは3cm前後が疲れにくい、靴底が曲がる位置が足の趾のつけ根に合っていること、かかとがしっかりフィットすること、などが基本です。
試し履きは必ず両足で、できれば夕方に行うのが勧められています(足は夕方にむくんで大きくなるためです)。靴の選び方で悩まれている方は、外来でも相談を受けています。