文月の外来
七月に入りました。京都の夏は梅雨明けとともに本格的な暑さがやってきます。外来でも「だるい」「食欲が出ない」という声に加えて、屋外での作業中に足がつったというご相談が増えてくる季節です。
体が暑さに慣れていない時期は特に注意が必要です。この一カ月、無理のない範囲で体を動かしながら、暑さへの対応力をつけていただければと思います。
汗と足のつり
暑い時期になると「夜中に足がつって目が覚める」というご相談が増えます。高温多湿の環境で大量に汗をかき、水だけを補給していると起こりやすい症状です。
汗には水分だけでなく塩分などの電解質も含まれています。これが失われると血液中のナトリウム濃度が下がり、ふくらはぎや太もも、腕の筋肉が痛みを伴ってけいれんすることがあります。
対策としては、水分とあわせて塩分やミネラルも補給することが基本です。市販のスポーツドリンクは糖分が多めなので、水で薄めて塩を少し加えるくらいがちょうどよいという考え方もあります。繰り返す場合は遠慮なくご相談ください。
紫外線と外出
7月は一年で紫外線量が最も多くなる時期の一つです。リハビリのために散歩や軽い運動を勧めることが多いのですが、この時期は時間帯への配慮もお伝えしています。
日差しの強い日中を避け、朝の涼しい時間帯に体を動かすだけでも負担はかなり変わります。帽子や日傘、水分の携行も忘れずに、無理のない範囲で続けてください。
水分補給のタイミング
「喉が渇いてから飲む」では遅いとよく言われますが、これは体が渇きを感じる時点ですでに体内の水分が不足し始めているためです。
外出前や運動前後、起床時や入浴前後など、こまめに少しずつ水分をとる習慣が、熱中症や足のつりの予防につながります。高齢の方は喉の渇きを感じにくい傾向があるため、時間を決めて飲む工夫も有効です。
冷房と肩・腰の冷え
暑さが増すにつれて冷房を使う時間も長くなります。冷えた風が直接体に当たり続けると、肩や腰まわりの筋肉がこわばり、痛みやだるさにつながることがあります。
設定温度を下げすぎない、風向きを体に直接当てない、羽織るものを一枚用意しておくといった工夫で、冷房による不調はかなり防げます。暑さ対策と冷え対策、両方のバランスを意識してお過ごしください。
今月から「整形外科Q&A」を始めます。ひとつのテーマを数回に分けて、少し踏み込んでお話しする企画です。第1弾のテーマは「朝の膝の痛み」。全4回でお届けします。全文まとめは整形外科Q&A「朝の膝の痛み」からどうぞ。
朝、膝が痛いのに動くと楽になる
「朝起きた瞬間は膝が痛いのに、少し動いているうちに楽になる」というご相談を、診察室でよくお聞きします。これは多くの方に見られる、ごくありふれた現象です。慌てて心配される必要はありません。
医学的には「動き始め痛」、あるいは「ゲル現象」と呼ばれています。夜間じっと動かずにいた関節が、少し固まった状態から、動き出すことでほぐれていく――そんなイメージです。起床直後がいちばん痛く、歩き始めて数分〜十数分すると和らいでくる、というパターンが典型的です。
一つだけ知っておいていただきたい目安として、このこわばりが30分以上、特に1時間以上続く場合は少し違うタイプの関節の問題が隠れていることがあります。次回は、関節の中で実際に何が起きているのかをお話しします。
なぜ動くと楽になるのか ― 関節の中で起きていること
前回、朝の「動き始め痛」はよくある現象だとお話ししました。今回は、関節の中で実際に何が起きているのかをもう少し詳しくご説明します。
膝関節の中には関節液という潤滑液が入っており、骨と骨がこすれ合う摩擦を減らす役割を持っています。夜間ほとんど動かさずにいると、この巡りが一時的に悪くなり、関節を包む膜や周囲の組織もやや硬くなります。そこへ起床後の最初の一歩で体重がかかるため、痛みとして感じやすくなるのです。歩き始めると関節液が全体に行き渡り、関節も温まってきます。
軟骨の中の水分も、体重がかかるとクッションのように働き、摩擦を大きく減らすことが分かっています。また、歩くことで太ももやふくらはぎの筋肉が働き、関節が安定することも痛みの軽減につながります。次回は「様子見でよいこわばり」と「受診したほうがよいこわばり」の見分け方をお話しします。
「様子見でいいこわばり」と「受診すべきこわばり」の境目
これまで2回にわたり、朝の膝の痛みが動くうちに楽になる仕組みについてお話ししてきました。今回は「様子を見ていいのか、受診したほうがいいのか」という実務的な目安についてです。
一般に、変形性膝関節症による朝のこわばりは動き始めてから30分以内に軽快することが多いとされています。30分を超えて続く場合、特に1時間以上続く場合は、違うタイプの関節の炎症が関わっている可能性があります。膝が明らかに腫れている、熱を持っている、手指や手首など複数の関節にもこわばりがある、といったサインが重なる場合は、早めのご相談をお勧めします。
逆に、朝の一瞬だけこわばるが10〜20分程度で楽になり、腫れや熱感もない場合は、加齢や関節の使い方に伴う一般的な変化の範囲内であることがほとんどです。次回は、膝OAの少し違った見方についてお話しします。
実は「軟骨のすり減り」だけじゃない
変形性膝関節症というと「軟骨がすり減って痛くなる病気」というイメージをお持ちの方が多いと思います。間違いではありませんが、それだけでは説明できないこともあります。実際には、軟骨だけでなく、関節を包む滑膜やその下の骨まで含めた「関節全体の変化」として理解されるようになってきています。
滑膜に軽い炎症が起きていると、それが痛みの一因になることが分かってきました。レントゲンで見える軟骨の減り方と、実際に感じる痛みの強さが必ずしも一致しないのは、こうした背景があるためです。同じくらいの関節の状態でも朝の痛みの強さに個人差があるのは、痛みの感じ方そのものが敏感になっている状態が関わっていることもあると考えられています。「気のせい」では決してなく、神経の仕組みの変化として説明されるものです。
4回にわたりお話ししてきたこのシリーズも、次回で最終回です。まとめとして総括をお届けします。
朝の膝の痛み、動くと楽になるのはなぜか
今月は4回にわたり「朝、膝が痛いのに動くと楽になる」というテーマでお話ししてきました。夜間動かさずにいた関節が硬くなり、歩き始めることで関節液のめぐり・軟骨の潤滑・筋肉による安定化が働き出す、というのが痛みが和らぐ主な理由です。加えて、関節を包む滑膜の軽い炎症や、痛みの感じ方そのものの個人差も関わっていることが分かってきています。
実務的に一番大切なのは、こわばりの持続時間です。動き始めて30分以内、目安として1時間以内に軽快するようであれば、多くは加齢や関節の使い方に伴うありふれた変化です。一方で、それを超えて続く場合や、腫れ・熱感、複数の関節に及ぶこわばりを伴う場合は、違うタイプの関節の炎症が隠れていることがありますので、遠慮なくご相談ください。
単純な一つの原因ではなく、いくつもの要因が重なって起きているからこそ、この見分け方を知っておいていただくことが、日々の膝との付き合い方を考える一助になれば幸いです。
全4回まとめて読みたい方は整形外科Q&A「朝の膝の痛み」全文ページをご覧ください。
安静と、動くこと――どちらがよいのか
腰が痛いとき、「動くとさらに悪化しそうで怖いから、まず安静にしよう」と考える方は少なくありません。診察室でもよくお聞きするご相談です。
実はこれ、現在の医学的な考え方とは逆です。急に腰が痛くなったときでも、ベッドで寝ているより、できる範囲で普段通りの活動を続けた方が、痛みの軽さも日常動作のしやすさも上回るという報告が積み重なっています。長期の安静にはむしろ、筋力低下などの弊害が知られています。
「痛くても、できる範囲で普段通りに動く」というのが、今の標準的な考え方です。次回は、運動療法そのものの効果がどれくらい確かなのか、数字も交えてお話しします。
運動療法の効果は、どれくらい確かなのか
前回、腰痛では安静よりも活動を続けた方がよいとお話ししました。今回は、運動療法そのものにどれくらいの効果があるのか、正直なところをお伝えします。
慢性的な腰痛に対する運動療法は、痛みや動作のしやすさを統計的に有意に改善するという報告が多数あります。ただし、その効果の大きさは「劇的に効く」というほどではなく、あらかじめ設定された「臨床的に意味のある改善」の基準には届かない、というのが正直な評価です。
一方で、運動療法によって症状が悪化する危険性が高いわけでもありません。「何もしないよりは確実に良く、危険性が高いわけでもない」というのが、現時点での最も正直な位置づけです。次回は、数ある運動の中から何を選べばよいのかをお話しします。
どんな運動を選べばよいのか
「結局どの運動が一番効くのですか」というご質問をよくいただきます。ピラティスやマッケンジー法(腰を反らせる運動を中心とした方法)、体幹を鍛える運動などが、他の運動よりやや効果が高いとする報告があります。
ただし、種類の違いだけで効果が決まるわけではありません。運動療法の効果は続けてこそ得られるものであり、「これなら続けられる」と本人が感じる運動を選ぶことが、種類の優劣以上に大切だと考えられています。
好みや生活リズムに合った運動を、無理のない範囲で続けていただくのが一番です。次回は、「動くのが怖い」という気持ちそのものについてお話しします。
動くと悪化しそうで怖い、という気持ちについて
腰痛が長引くと、「動く=また痛くなる」という不安から、動作そのものを避けるようになる方がいらっしゃいます。この気持ちはとてもよく分かりますが、実は、痛みへの恐れから活動を避けることが、かえって症状を長引かせてしまう悪循環につながることが知られています。
動作を避け続けると筋力や柔軟性が落ち、身体機能そのものが低下することで、かえって痛みを感じやすくなってしまうのです。「気のせい」では決してなく、痛みへの向き合い方そのものが、症状の経過に影響することが分かってきています。
不安が強い方ほど、少しずつ、できる範囲で活動量を増やしていくのが助けになります。自己判断で無理をする必要はありませんので、不安が強い場合は遠慮なくご相談ください。4回にわたりお話ししてきたこのシリーズも、次回でまとめをお届けします。
腰痛に運動療法は効くのか、何を選べばいいのか
今回は4回にわたり「腰痛と運動療法」というテーマでお話ししてきました。急性腰痛では安静よりも活動を続けた方がわずかに回復が早く、慢性腰痛への運動療法は「劇的ではないが確実に意味のある」効果を持っています。運動の種類はある程度の差があるものの、それ以上に「続けられるかどうか」が大切です。
また、「動くと悪化しそうで怖い」という気持ちが、かえって症状を長引かせてしまうことがある、というお話もしました。痛みへの向き合い方そのものが、回復の過程に影響するということです。
下肢の脱力やしびれの悪化、排尿・排便のコントロールのしにくさ、安静にしても改善しない痛み、発熱を伴う場合などは、通常の腰痛とは異なる原因が隠れていることがありますので、遠慮なくご相談ください。詳しい根拠やレッドフラグの一覧は整形外科Q&A「腰痛に運動療法は効くのか」全文ページにまとめていますので、あわせてご覧ください。