葉月という名前
八月にはいり、依然として猛暑が続いています。
八月は葉月といいます。旧暦の八月は今の九月ごろにあたりますので、葉が落ち始める「葉落月(はおちづき)」が略されたものという説があります。ほかに、稲の穂が張る「穂張月(ほはりづき)」から、雁が初めて渡ってくる「初来(はつき)」から、といった説も伝わっており、どれが本当かは決まっていません。
仲秋の名月を迎える月でもありますので、月見月、雁来月(がんらいづき)、秋風月といった異称も残っています。並べてみると、いずれも秋の言葉です。
名前ばかりが秋めいていても、体にかかる負担は夏のままです。暑さの疲れが溜まってくる時期でもありますので、無理をなさらずお過ごしください。
「整形外科Q&A」の第3弾として、今月は骨粗鬆症を取り上げます。診療の拠り所である指針が10年ぶりに改訂されましたので、変わった点と変わらなかった点を全12回でお伝えします。全文まとめは整形外科Q&A「骨粗鬆症2025」からどうぞ。
10年ぶりに指針が新しくなりました
「この薬、いつまで続けるのでしょうか」「飲み続けて大丈夫ですか」。骨粗しょう症の治療を続けておられる方から、診察室でよくお受けする質問です。
こうした問いに答える拠り所となるのが、専門学会がまとめた診療の指針、ガイドラインです。その骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインが、10年ぶりに改訂されました。2015年版から2025年版へ。
大きな変更は三つあります。一つめは、ガイドラインそのものの作り方です。今回から臨床上の疑問をあらかじめ設定し、文献を系統的に集めて評価するという手順が採られました。「専門家がこう考える」から「調べた結果こうだった」へ、根拠の示し方が変わったということです。
二つめは新しい薬の追加です。ゾレドロン酸、アバロパラチド、ロモソズマブの三剤が加わりました。この10年で治療の選択肢は確実に増えています。
三つめは、この間に出された関連文書が取り込まれたことです。顎の骨の合併症に関する2023年の見解、ステロイドによる骨粗しょう症の2023年版指針、がん治療に伴う骨量減少の診療マニュアルなどです。
まず先にお伝えしておきます。診断の基準そのものは変わっていません。「基準が厳しくなったのでは」とご心配になる方がおられますが、その点はご安心ください。
次回は、そもそも骨粗しょう症とはどのような病気と定義されているのか、その考え方の変化からお話しします。
骨の「量」から「強さ」へ
「骨密度はそれほど悪くないと言われたのに、折れてしまいました」。こうしたご相談を受けることがあります。数値が良ければ安心、とは限らないのです。
この点は、骨粗しょう症という病気の捉え方そのものと関わっています。
1994年に世界保健機関が示した定義は、骨量が低く骨組織の微細構造に異常があり、骨がもろくなって骨折の危険が高まる疾患、というものでした。骨の量を中心に見る考え方です。
ところが2000年、米国国立衛生研究所の会議で定義が改められます。「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」。量ではなく強さで捉える、という転換でした。
なぜ変わったのか。骨の強さは骨密度だけでは決まらないと分かってきたためです。骨強度のうち骨密度で説明できるのはおよそ70%、残る30%ほどは「骨質」によるとされています。骨質を決めるのは、微細構造、骨代謝回転、微小骨折の蓄積、骨組織の石灰化度などです。
測定でわかるのは骨の「固さ」であって「質」ではない。以前この日記で申し上げたことですが、国際的な定義もまさにその方向へ動いてきたということになります。
次回は、日本にどれくらいの患者さんがおられるのか、最新の推計をご紹介します。
日本にどれだけの患者さんがいるのか
「骨粗しょう症って、そんなに多い病気なんですか」と聞かれることがあります。2025年版には新しい推計が載っていますので、ご紹介します。
和歌山県などで続けられている地域住民の追跡調査で、2015年から2016年にかけて1,906人の骨密度を測定した結果です。40歳以上の有病率は、腰椎で男性1.4%・女性13.9%、大腿骨頚部で男性4.1%・女性18.3%。いずれも女性が有意に高い結果でした。
これを国勢調査の人口構成に当てはめると、腰椎または大腿骨頚部で診断される患者数は1,090万人(男性170万人、女性920万人)と推定されます。
興味深いのは10年間の変化です。同じ地域で2005年から2007年に行われた調査と比べると、腰椎の有病率は男女とも有意に低下していました。一方、大腿骨頚部では差がありませんでした。
ただし、率が下がっても患者数そのものは増えています。高齢の方が増えているためです。率は改善、実数は増加。この二つは両立します。
女性が男性の3倍から4倍という差も、あらためて目を引きます。閉経後の骨量減少が大きく効いているためで、女性にとって骨密度測定が特に重要になる理由でもあります。
次回は、骨折が介護にどう結びつくのかを数字で見ていきます。
運動器の障害が介護の4分の1
骨折の話をすると「歳だから仕方ない」とおっしゃる方がおられます。しかし数字を見ると、そう言って済ませてしまうには惜しい現実があります。
2022年の国民生活基礎調査によると、要支援・要介護になった原因は、認知症16.6%、脳血管疾患16.1%、転倒・骨折13.9%、高齢による衰弱13.2%、関節疾患10.2%、脊髄損傷2.2%でした。
このうち転倒・骨折、関節疾患、脊髄損傷を合わせると26.3%。運動器の障害がおよそ4分の1を占め、認知症も脳血管疾患も上回ります。
骨粗しょう症の話が介護予防につながるのは、この数字があるからです。骨を守ることは、そのまま自立した生活を守ることになります。
次回は、運動器の衰えを測る「ロコモ」という物差しをご紹介します。
ロコモという物差し
「まだ歩けているから大丈夫」とおっしゃる方に、一度試していただきたい確認があります。
運動器の障害を包括的に捉える考え方として、日本整形外科学会が2007年に提唱したのがロコモティブシンドローム、通称ロコモです。運動器の障害のために移動機能が低下した状態を指します。
簡単な確認がロコチェックです。日本整形外科学会が提唱するもので、次の7項目のうち一つでも当てはまれば、運動器が衰えているサインとされます。
| 1 | 片脚立ちで靴下がはけない |
|---|---|
| 2 | 家の中でつまずいたり滑ったりする |
| 3 | 階段を上がるのに手すりが必要である |
| 4 | 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど) |
| 5 | 2kg程度の買い物(1リットルの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である |
| 6 | 15分くらい続けて歩くことができない |
| 7 | 横断歩道を青信号で渡りきれない |
さらに詳しく調べるロコモ度テストは三つで構成されます。10〜40cmの台から立ち上がれるかを見る立ち上がりテスト、できるだけ大きな歩幅で2歩進んで身長で割る2ステップテスト、そして25項目の質問票であるロコモ25です。
注目したい報告があります。地域にお住まいの高齢者を対象とした調査で、フレイルに該当する方もサルコペニアに該当する方も、全員がロコモ度1以上に当てはまっていました。さらにロコモ度3の方は、非該当の方に比べて6年後の死亡リスクが3.78倍、要介護に移行するリスクが3.63倍という結果でした。
ロコモを防ぐことが、フレイルやサルコペニアを防ぐことにもつながる。そうした関係が見えてきます。
次回は、そのフレイルとサルコペニアについてお話しします。
サルコペニアとフレイル
「フレイルと言われました」と、不安そうにお越しになる方がおられます。まずお伝えしたいのは、これは元に戻りうる状態だということです。
サルコペニアは、筋肉の量と力が進行性に減っていく状態を指します。筋量の低下、筋力の低下、身体機能の低下という三つで診断します。ふくらはぎの周囲を測る、握力を測る、椅子から5回立ち上がる時間を測る、といった方法が使われます。
フレイルは、心身の予備能力が落ちて健康を損ないやすくなった状態です。体重減少、活力の低下、握力低下、歩行速度の低下、活動量の低下という五つのうち、三つ以上該当すればフレイル、一つか二つならその手前と判断されます。
かつてフレイルは「虚弱」と訳されていました。しかしこの訳語では、衰えたきり戻らない状態という印象を与えてしまいます。フレイルには適切に手を打てば健常な状態に戻りうる面がありますので、日本老年医学会は2014年、虚弱ではなくフレイルという言葉を使うことにしました。
ただし正直に申し上げれば、いったん進んだフレイルを元に戻すのは、実際にはそう簡単ではありません。可能性があるという話であって、必ず戻るという話ではないのです。だからこそ、進んでしまう前の段階で気づくことに意味があります。
次回は、2025年版の診断基準についてお話しします。
診断基準は変わっていません
改訂と聞いて「基準が厳しくなったのですか」とご心配になる方がおられます。結論から申し上げます。骨粗しょう症と診断する基準そのものは、2025年版でも変わっていません。
使われているのは2012年度改訂版の診断基準です。骨折があるかないかで、二通りに分かれます。
| 骨折なし | 骨密度が若年成人平均値(YAM)の70%以下、または−2.5SD以下 |
|---|---|
| 椎体・大腿骨近位部の骨折あり | 骨密度にかかわらず骨粗鬆症 |
| その他の部位の骨折あり | 骨密度がYAMの80%未満 |
背骨と脚のつけ根の骨折があれば、骨密度を問わず骨粗しょう症と診断します。この二か所の骨折は、その後の生活への影響が特に大きいためです。
「その他の部位」とは、肋骨、骨盤、上腕骨の肩に近い部分、手首、下腿の骨などを指します。ここが折れた場合は基準がやや緩やかになり、YAMの80%未満で診断されます。
なお、骨密度は原則として腰椎か大腿骨近位部で測ります。複数の部位を測ったときは、低い方の値を採用します。高齢の方で背骨の変形のために腰椎の測定が難しい場合は、大腿骨近位部で判断します。
次回は、骨密度以外の要素も含めて骨折の危険性を評価するFRAXについてお話しします。
骨密度だけでは決まらない FRAX
「骨密度は年齢並みと言われました。それなら安心でしょうか」。これも診察室でよくいただく質問です。
実は、骨密度は骨折の危険性を説明する要素の一部にすぎません。世界32か国64のコホートを統合した解析では、低い骨密度が説明できたのは骨粗鬆症性骨折の17%、大腿骨近位部骨折の33%にとどまりました。既存の骨折の方が、骨密度よりも大きく骨折リスクに関わっていたのです。
主な危険因子を挙げます。
| 既存の骨折 | 約1.8倍。骨折の数が多いほど高まる |
|---|---|
| 親の大腿骨近位部骨折歴 | 2.3倍 |
| 過去の転倒歴 | 男性1.4倍、女性1.5倍 |
| 喫煙 | 1.3倍 |
| 飲酒 | 1日3単位以上で大腿骨近位部骨折が1.7倍 |
| 糖尿病・COPD・慢性腎臓病 | 1.3〜1.7倍 |
| 骨密度 | 1SD低いごとに1.5〜2倍 |
こうした要素をまとめて、10年以内に骨折する確率を算出する道具がFRAXです。年齢、性別、体重、身長、既存骨折、親の骨折歴、喫煙、飲酒、ステロイドの使用などを入力します。
もう一つ、覚えておいていただきたい言葉があります。「差し迫った骨折」です。骨折した直後は次の骨折の危険が特に高く、1年以内に約7.6%、2年以内に約11.6%が再び骨折すると報告されています。折れた後こそ、治療を始める好機ということになります。
次回からは予防の話に移ります。まずは食事です。
食事 カルシウム・ビタミンD・K
「カルシウムを摂っていれば大丈夫ですか」。よくいただく質問ですが、答えは「それだけでは足りません」です。
2025年版が示す摂取量は次の通りです。
| カルシウム | 1日700〜800mg |
|---|---|
| ビタミンD | 1日15〜20μg(600〜800 IU) |
| たんぱく質 | 体重1kgあたり1g程度 |
ところが実際の摂取量は届いていません。国民健康・栄養調査によれば、カルシウムはおよそ500mg、ビタミンDは6.2μg。いずれも推奨量の7割から4割ほどにとどまります。
ビタミンKについては、2025年版では治療のための推奨量が示されていません。日本人の食事摂取基準2025年版が定める18歳以上の目安量は1日150μgです。納豆や緑の葉物野菜に多く含まれます。
摂りすぎにも上限があります。カルシウムは1日2,500mg、ビタミンDは100μgが上限とされ、カルシウムのサプリメントは1回500mgを超えないよう配慮することとされています。
なにより大切なのは、全体としてきちんと食べられているかどうかです。低栄養や低体重そのものが骨粗しょう症の原因になります。カルシウムの話は、その土台があってはじめて意味を持ちます。
次回は運動です。よくある誤解を一つ解いておきます。
運動 水泳と水中運動は違います
「プールに通っているので骨は大丈夫ですね」。そうお尋ねになる方に、少し込み入ったお答えをしなければなりません。
2025年版は運動療法を推奨しており、この推奨に対する委員の合意率は100%、エビデンスの強さはBとされています。挙げられている運動の種類は、有酸素運動、筋力トレーニング、その複合運動、ウォーキング、荷重運動、太極拳、全身振動刺激運動、そして水中運動です。
ここで水泳と水中運動を分けて考える必要があります。
水泳そのものには、骨密度を上げる根拠がありません。複数のメタ解析で、水泳選手の骨密度は運動をしていない対照群と同程度にとどまり、バスケットボールなど跳ぶ競技の選手より低いことが一貫して示されています。浮力で骨に衝撃が伝わらないためです。
一方、水中運動には骨密度上昇の報告があります。ただし効果を示した研究の中身を見ると、水中でジャンプする、水の抵抗を使って押す・引くといった高強度のものばかりです。ゆっくり水中を歩くだけで骨密度が上がったという報告は見当たりません。
膝や股関節の悪い方に水中歩行をお勧めすることがありますが、あれは関節への負担を減らしながら痛みをやわらげ、筋力を保つためです。骨を強くする目的なら、陸上での運動を別に考えていただく必要があります。
次回は、いつから薬を始めるのかという話に入ります。
いつから薬を始めるのか
「骨密度が少し低いと言われましたが、薬はまだ要りませんか」。判断の分かれ目を、2025年版はこう定めています。
まず診断基準に当てはまる方、つまり背骨や脚のつけ根の骨折がある方、その他の部位の骨折があってYAM80%未満の方、骨折がなくYAM70%以下または−2.5SD以下の方は、薬物治療の対象です。
難しいのはその手前、骨折がなくYAMが70%より大きく80%未満という方です。この場合は次のいずれかに当てはまれば治療を開始します。
| FRAX | 10年間の主要骨折確率が15%以上 |
|---|---|
| 家族歴 | 親に大腿骨近位部骨折の既往がある |
ただし但し書きが二つあります。FRAXの15%という区切りは75歳未満に適用するものであること。そしてこの基準は原発性骨粗鬆症のためのものですので、ステロイドの使用、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症のいずれかに当てはまる方には適用されません。これらがすべて「なし」の方に限られます。
ステロイドによる骨粗しょう症には別の基準があり、そちらを参考に判断します。
最終回は、薬の選び方と続け方についてお話しします。
薬の選び方と、いつまで続けるか
第1回でご紹介した「いつまで続けるのですか」という質問に、最後にお答えします。
まず選び方です。2025年版では、国際的な治療の考え方が取り入れられ、患者さんの状態を三つに分けて初期治療を選ぶ形になりました。骨折の既往がない方、2年より前に骨折した方、そして差し迫った骨折の危険が高い方です。背骨や骨盤、脚のつけ根を骨折した方には、骨をつくる働きを促す薬を最初に選ぶことが示されています。
この10年で加わった薬が三つあります。ゾレドロン酸、アバロパラチド、ロモソズマブです。従来のアレンドロネートやリセドロネート、デノスマブ、テリパラチドと合わせ、選択肢はかなり広がりました。薬ごとに投与の間隔も、注射か内服かも異なりますので、生活に合うものを一緒に選んでいくことになります。
では、いつまで続けるのか。骨をつくる薬には期間の定めがあり、テリパラチドは24か月まで、アバロパラチドは18か月までとされています。骨の吸収を抑える薬については、効果と副作用を見ながら継続・変更・休薬を判断していきます。
ここで一つ、歯科治療について申し添えます。2025年版は、原則として抜歯の際に骨吸収を抑える薬を休薬しないことを提案しています。以前とは考え方が変わっていますので、歯科で骨の薬について尋ねられた際は、この点をお伝えください。
全12回にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました。骨粗しょう症は、痛みが出ないまま進み、折れてはじめて気づくことの多い病気です。だからこそ、測ること、続けることに意味があります。気になることがあれば、いつでもご相談ください。